「騎士団長殺し」新潮社 第2部 遷ろうメタファー編 pp.390-391
いずれにせよ、寒さは前より痛切になっていた。そして尿意も感じるようになった。我慢できないほどの尿意だ。しかたなく、私は穴の隅に行って地面に放尿した。長い放尿だったが、尿はすぐに地面に吸収されていった。微かなアンモニアの匂いがしたが、それもすぐに消えてしまった。そして尿意が解消してしまうと、そのあとをすぐに空腹感が埋めた。私の身体はゆっくりと、しかし着実に現実の世界に適合しつつあるようだった。あのメタファーの川で飲んだ水の作用が、身体から抜け落ちつつあるのかもしれない。
これまで村上春樹作品ではありえなかった○○の存在が話題な「騎士団長殺し」ですが、小便シーン研究家の僕に言わせれば、村上作品のタブーを破り、初めて「私」がトイレ以外の場所(「井戸」ならぬ「穴の底」)で小便をしたという事実が衝撃的。
私のトイレはここからどこに進んでいこうとしているのか?