2009年7月8日水曜日

村上春樹作品における小便シーンの研究5

国境の南、太陽の西」講談社文庫 pp.50-51

 叔母は気楽に歌を歌いながら野菜を切ったり、味噌汁を作ったり、卵焼きを作ったりした。でもどれだけ経っても彼女は洗面所に行かなかった。それは僕をすごくいらいらさせた。ひょっとしたらこの女はとくべつ巨大な膀胱を持っているのかもしれないと僕は思った。でも僕がほとんどあきらめかけたころになって、やっと叔母はエプロンを取り、台所を出ていった。僕は彼女が洗面所に入るのを確かめてから居間に飛んでいって、手を思い切り二度叩いた。イズミが靴をさげて階段を下りてきて、素早くそれを履き、音を忍ばせて玄関から出ていった。僕は台所に行って、彼女が無事に門を出ていくところを確認した。それからすぐに、ほとんどすれ違いみたいに叔母が洗面所から出てきた。僕はため息をついた。


両親が法事か何かの用事で出かけてしまったある日、彼女を自宅に連れ込んだ高校生の「僕」。
そんな時に限って、突然叔母さんがやってきて夕食を作ってくれるという。
部屋に閉じ込められて出ていくことができない彼女。
僕は叔母さんがトイレに行くタイミングを見計らって、彼女を外に逃がそうとするのだが。。。

大人になってしまった今ではあまり意識しないけれど、パートナーと裸で向き合うことができるということはとても素晴らしい経験だと思う。
でもそれはタイミングがとても難しい。
高校生の男子といえば性欲のかたまりみたいなものだけれど、パートナーが同年代の女性だとしたら、ある程度性的に奔放な性格でないと暴走した欲望が二人の関係自体を損なってしまうことだろう。
僕らが「あの頃」を切なく思い出すのは、そんな薄氷を踏むような危うさを伴った時代だったからなのかもしれない。

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